整備されたゲレンデではなく、雪が降り積もったままのコースを滑るパウダースキーイング。自然のままの雪を存分に楽しめるとあって、近年大人気のパウダー滑走ですが、以前はごく限られたエキスパートだけの世界でした。底がないかのような深い新雪で、スキーやスノーボードを操作するには高いテクニックが不可欠です。しかも、積もった雪の中でターンするにはある程度スピードが必要なことから、パウダー滑走は急斜面が主体でした。
しかし、近年では用具も進化しています。パウダー用のファットスキーやスノーボードギアが登場し、中級者レベルからパウダー滑走を楽しめるようになっています。かつてに比べればずっと手軽なジャンルになりましたが、それでも整備されたゲレンデと違い、リスクもないわけではありません。やはり、しっかりとした知識と装備を整えて臨むことが大切です。
パウダースノーの魅力と基本知識
一度味わったら、誰もがクセになってしまうパウダースキーイングやスノーボーディング。でも、パウダーってなんのこと?
一般にパウダー滑走とは「整備されていない深雪で覆われた斜面を滑る」ことですが、スキー場管理区域外で、自己責任で行なう「バックカントリースキーイング」を指して使われる場合もあります。本記事ではスキー場のルールに従い、管理区域内の非圧雪ゲレンデ(整備されていないゲレンデ)を滑ることを想定して解説していきます。基本的な知識とその魅力を知って、今シーズンはぜひパウダーデビューをしてみてください。
パウダースノーとは
一般的に「パウダースノー」とは、水分含有量が少なく、サラサラとした粉雪のことをいいます。水分が少ないので手で固めても雪玉をつくることができず、簡単に崩れてしまうような雪質です。この特徴により、スキーやスノーボードで滑ると体が宙に浮くような浮遊感を味わうことができ、大きな魅力となっています。
なお、「パウダースノー」という呼び方は、本来上記のような粉雪を指すものでしたが、近年では、圧雪(雪上車などでスキー場のコース用に整備すること)されていない、降り積もったままの状態を呼ぶ場合に使われることが増え、必ずしも「雪質」のことを表現する言葉ではなくなっています。
そして、実は日本は、世界に名だたるパウダー天国として知られ、豊富な積雪量と良質の雪で国際的な人気を集めています。
パウダースノーの魅力と特徴
パウダーを滑る面白さは、なんといっても「体が宙に浮くような浮遊感」でしょう。普通のゲレンデはスキーやスノーボードが雪面の上を滑りますが、パウダー滑走は雪の中を潜りながら滑るので、まるで底がないかのように宙に浮いた感覚を味わうことができます。
また、足元だけでなく、全身を使って大きな運動でスキーやスノーボードをコントロールする必要があるのも魅力です。一般的に水分が少ない粉雪のほうが滑るのは簡単ですが、パウダーらしい浮遊感を味わうなら適度に水分を含んだ雪質のほうが面白い場合もあり、こればかりは滑る人の好みもあるので一概には決められません。
また、パウダー滑走は多くの場合急斜面で行ないますが、「ツリーラン」と呼ばれる「木を伐採していないコース」を滑るエリアを用意しているスキー場もあり、より「自然のままの雪山を滑る」感覚が強いといえます。
パウダースノーで滑る用具の違い
パウダーは普通のスキーでも滑ることができますが、センター幅が広い「ファットスキー」を使うことで、より簡単に滑れるようになります。普通のスキーに比べて浮力があるため、スキーが雪の中に潜ってしまっても浮き上がりやすく、ターン操作がしやすくなっています。
また、パウダー用のスキーの中には、スキーのトップ側とテール側が上方向に反り上がった「ロッカー」という設計が採用されているものも多くあり、これも雪の中でスキーに浮力を与えてくれるので、パウダー滑走を容易にしてくれます。ストックは、リング(バスケット)径が大きなものが一般的で、雪の中で深く埋もれたりしないようになっています。
スノーボードの場合は、スキーよりもずっと幅広の形状なので、もともとパウダーで浮きやすい性質を備えています。なおかつオールマウンテンタイプなど、滑走条件による対応幅の広いスノーボードギアも豊富に出揃っているので、パウダーを狙うならこのような用具を使用するとよいでしょう。
パウダースキーが楽しめるおすすめのスキー場9選
近年、非圧雪コースやツリーランコースを拡張するスキー場が増えています。その理由は、もちろんパウダー滑走を楽しめるようにするため。本格的なバックカントリーでなくても、ゲレンデ内のパウダーなら、雄大な自然と一体感を味わえることができます。ここでは、非圧雪コースで人気のスキー場をピックアップして紹介します。
志賀高原(横手山・渋峠スキー場)
内陸部に位置し、しかも標高(最高標高地点2,307m)が高いので、シーズン中は安定してパウダースノーが降り積もるスキー場です。その真綿のように軽い雪質は国内でもトップクラスといわれ、降雪時は通常のコース内でもブーツが隠れるくらいのパウダーを楽しめることが珍しくありません。
志賀高原横手山エリアでのパウダー滑走のおすすめスポットは、第1・第2「ジャンボコース」(滑走距離約800m、最大斜度35度、平均斜度30度)や、渋峠エリアの「ウェーバーコース」(滑走距離約1,000m、最大斜度24度、平均斜度16度)など。
「ジャンボコース」は幅がやや狭いので上級者向け、「ウェーバーコース」は部分的に斜度があるものの全体的には中斜面メインの構成で、パウダー入門にもよいでしょう。なお、非常に気温が低いエリアなので、防寒対策は十分にし、悪天候時の滑走は慎重に行いたいものです。
おんたけ2240
標高2,240mの雲海の上に絶景のパノラマが広がるスキー場です。トップから7kmにも及ぶロングコースは、ビギナーでも本格的なロングクルーズが楽しめることで有名。しかも、ボトムからトップまで極上のパウダースノーが降り積もっています。
どのコースも快適ですが、特にパウダーを満喫できるのは「エキスパートコース」(滑走距離約900m、最大斜度35度、平均斜度23度)。また、初級コースの「三笠ウイングコース」(滑走距離約900m、平均斜度20度)や、「パラダイスコース」(滑走距離約1,300m、平均斜度12度)のほか、林間コースの「パノラマAコース」や「パノラマBコース」「パノラマCコース」でもコースサイドにちょっとしたパウダーゾーンがあって楽しめます。
全体的には快適な中斜面のロングコースがメインなので、ふわふわのパウダーを長い距離滑って、いつの間にか上達している自分に気がつくという、そんなスキー場といえます。
高峰マウンテンパーク(旧アサマ2000)
浅間山の連山である高峰山の中腹、標高約2,000mに広がる「高峰マウンテンパーク」。低い気温を生かして初冬からスノーマシンで雪付を行い、11月には確実にオープンという特徴を持つスキー場です。リフトは4本、コース数は6本というコンパクトなレイアウトですが、緩斜面から急斜面までバランスよく揃っており、降雪時はパウダー滑走も楽しむことができます。
おすすめのコースは「ダイビング」(滑走距離約500m、最大斜度25度、平均斜度22度)、「セントラル」(滑走距離約900m、最大斜度16度、平均斜度22度)、「パノラマ」(滑走距離約1,000m、最大斜度14度、平均斜度24度)など。いずれも北向き斜面なので、雪質は1日中安定しています。
なお、高峰マウンテンパークはエキスパートスキーヤーの比率が高いスキー場です。滑っている人の滑走スピードがほかのスキー場よりも速い傾向にあるので、安全には十分に気を配りましょう。また、パウダースノーに恵まれたスキー場である反面、逆にアイスバーンになりやすいスキー場でもあるので、雪質の事前確認をしておきましょう。
丸沼高原スキー場
群馬県の丸沼高原は最長滑走距離4km、レベルに応じた22のコースがあるほか、豊富なアイテムを備えたスノーパークや、ファミリー&お子さま向けのキッズパークまで整った総合力の高いスキー場です。標高2,000mのゲレンデトップまでゴンドラでアプローチでき、関東最高峰である日光白根山の威容をバックに滑る爽快感も抜群です。
スキー場自体は内陸部に位置し、標高の高さから気温も低いため、サラサラのパウダースノーに恵まれているのもポイントです。パウダーを満喫するなら、なんといっても非圧雪の「シルバーコース」がおすすめですが、至る所にプチパウダー(コース脇のちょっとした新雪)があるので、エキスパートでなくても十分楽しめることでしょう。
竜王スキーパーク
竜王スキーパークは、全長約6km、標高差1,000m以上のロングランを楽しめるビッグゲレンデ。標高が高いため、内陸部ならではのドライパウダーが存分に味わえる山頂エリアへはロープウエイでイージーアクセスが可能です。
パウダースキーイングなら、竜王名物の非圧雪コース「木落しコース」(全長約1,400m、最大斜度36度)が有名。変化に富んだ沢地形の西~北斜面なので、常に雪質が安定しており、スリリングな滑走が楽しめます。ただし、このコースを滑るにはヘルメット着用が義務付けられているのでご注意を。
ゲレンデベースにあるフラット&ワイドなメインゲレンデも、降雪時ならコース脇などに豊富なパウダーが積もり、パウダー滑走の入門練習にぴったりです。
車山高原SKYPARKスキー場
景勝地として有名な白樺湖のすぐ近くに広がる開放感あふれるスキー場。標高が高いのでオープンが早いことでも知られています。積雪量はそれほどではありませんが、高性能のスノーマシンを駆使し良質の雪を降らせています。もちろん降雪時にはパウダー滑走が楽しめますが、深雪になることはあまりないため、パウダービギナーにもおすすめです。
パウダー狙いスキーヤーに人気なのが非圧雪の「スポーツマンコース(全長約750m、最大斜度38度、平均斜度23度)」です。ゲレンデトップから一気に落ち込む急斜面で、条件によってはエキスパートスキーヤーでさえ手こずってしまうような難易度の高さが特徴です。ゲレンデ中腹から下部にかけては、ワイドな中緩斜面が広がっていて、ファミリーにも人気です。
栂池高原スキー場
白馬山麓に連なる有名スキー場の中でも、その規模はトップクラスのビッグゲレンデ。標高差は904m!にも及び、連続最長滑走距離は5km。降雪があったときにはボトムからトップまでパウダー天国なんてこともあったりして、パウダーフリークには垂涎もののスキー場です。
パウダー滑走には、やはりスキー場最上部の「栂ノ森ゲレンデ」(全長約630m、最大斜度23度、平均斜度14度)がおすすめ。標高1,700m ならではの、たっぷり積もった上質の天然雪が自慢。原生林に囲まれた山岳ムードと眺望のよさも魅力です。また、馬の背中のような狭い尾根上の栂池名物の難コース「馬の背コース」(全長約1,300m、最大斜度32度、平均斜度17度)もパウダーが期待できます。
なお、スキー場のトップから上のエリアもパウダースキーでは有名ですが、スキー場管理区域外で完全な山岳スキーにあたります。本来は登山の届け出が必要であり、特別な装備と技術を持ち合わせた人だけの世界になっています。
エイブル白馬五竜&Hakuba47ウインタースポーツパーク
白馬バレイの南に位置する2つのスキー場「エイブル白馬五竜」と「Hakuba47ウインタースポーツパーク」は、パウダースキーイングのマニアに高い人気を誇っています。
エイブル白馬五竜は、全長5kmのロングコース、天然のパウダースノー、白馬エリア唯一のナイター、24時間営業のベースセンターなど多くの魅力を持ち、ビギナーからエキスパート、キッズやファミリーまでが楽しめるスキー場です。コース脇に非圧雪エリアがある「グランプリコース」(全長900m、最大斜度23度、平均斜度21度)や、全面非圧雪の「テクニカルコース」(全長300m、最大斜度28度、平均斜度24度)でパウダー滑走が楽しめます。
Hakuba47ウインタースポーツパークはアメリカンな明るい雰囲気のスキー場で、上部はエイブル白馬五竜と連結しています。非圧雪エリアも多く、天然の粉雪で思う存分滑ることができます。
パウダースノーをもっと楽しむためのポイント
パウダーをうまく滑るにはコツがあります。整備されたコースとは異なり、スキーやスノーボードを雪の中に埋もれさせず上手にターンするには、中級程度以上の技術が必要ですが、まずは「考えるより慣れろ」の精神で楽しんでいきましょう。
パウダーでの滑り方の基本を押さえる
パウダー滑走と一言で言っても、雪の深さによって滑り方はいろいろ。ブーツが埋まる程度の積雪であれば、通常の整備されたゲレンデとさほど変わらない感覚で滑ることができるでしょう。しかし、脛から膝くらいの深さになると、パウダー特有のテクニックが必要になってきます。
ポイントは、スキーやスノーボードを雪の中に埋もれさせたままにしないこと。身体を大きく使って上下動でターンのきっかけをつかむようにすると、スキーやスノーボードが雪から浮き上がってターンしやすくなります。
荷重配分とバランス、ターンのコツ
スキーの場合、ターンの基本は外側荷重ですが、パウダーでは極端な外足荷重は禁物です。内スキーにも適度に荷重して、左右のスキーがバラバラにならないように注意しましょう。
操作はいわゆる「同時操作(両スキーを一緒に動かすこと)」が基本になり、踏み替えるような動きはできるだけ行ないません。また、慣れないうちは、少しだけカカトよりに荷重することで、スキーのトップが雪の中から浮き上がりやすくなりターンもしやすくなります。ただし、あまりカカト荷重を意識しすぎると後傾姿勢になり、たちまちバランスを崩してしまうので注意しましょう。
ターンのコツ
ターンのきっかけは「上下の動き」、いわゆる膝の曲げ伸ばしによる上下動が基本。浅めのパウダーで軽くジャンプするような動きでターンをすると感覚をつかめます。また、パウダーでは多少斜度があっても雪の抵抗があるので、整地よりもスピードが出ません。あまり深回りのターンにするとかえってターン始動が難しくなるので、少し浅回りのターンをイメージして滑ることがコツです。
深雪でも浮きやすい性質を持つスノーボードの場合は、スキーで深雪を滑るほどの難しさはありません。ただ、滑る方向に対して後側の足(レギュラースタンスは右足、グーフィースタンスは左足)への荷重配分をやや多めにし、深雪での浮力を得るように意識するとよいでしょう。また、ターンの際にはスキーと同様に圧雪バーンを滑るときより上下動を大きくすることも必要です。
ディープパウダーでのスキーテクニック
腰まで埋まるようないわゆる「ディープパウダー」を滑ることは、多くのスキーヤー&スノーボーダーにとって憧れです。ただし、このくらいの深さになると雪の抵抗が大きく、斜度が急でないと滑ることができないので、どうしても上級者の領域になってきます。
スキーの場合、従来は大きな上下動や抱え込み操作によって板を雪の表面に浮かせ、瞬間的に方向付けを行って小回りするスタイルが主流でした。ただ、用具やテクニックが進化した現在では、スキーのテール部分をうまく使ってサーフィンのようにスキーを雪面から浮かせ、ミドルターンやロングターンをするスタイルが流行しています。また、意図的に内スキーに乗って派手なスプレー(雪煙)を上げたり、スキーの反動を上手に使ってスキー全体を雪の上に浮かせてターンする「エアターン」などもエキスパートの楽しみになっています。
パウダースノー用のスキー装備
たとえゲレンデ内のパウダー滑走であっても、リスクマネジメントは大切。整地を滑っているときには考えられないような事態もパウダーでは起こり得ます。ここではパウダー滑走をよりセーフティに楽しむための用具や装備について解説していきます。
適切なスキー板の選び方
パウダーを滑るのに特別なスキーは必要ありませんが、よりイージーに楽しむなら、ウエスト幅が広い「ファットスキー」が絶対におすすめです。普通のスキーに比べて深雪の中でも圧倒的に浮き上がりがよく、ターン始動も簡単になります。
長さは通常のスキーよりもやや長めで大丈夫。普段165cmのスキーを使っている人なら170cm~180cmくらいを目安にするとよいでしょう。また、「ロッカー」といって、スキーのトップ部分、もしくはトップとテールの両方が上に反り上がったタイプもあります。このようなスキーは深雪の中での浮力がとても大きいので、ディープパウダー滑走にも有利になっています。
パウダーに適したストック
パウダー滑走では、リング(バスケット)の直径が大きいストックを使います。通常サイズのリングだと、突いたときに雪に埋もれてしまいますし、転倒時の補助になりません。コース脇の浅いパウダーならいつものストックでも構いませんが、膝くらいの本格的なパウダーを滑るのであれば、専用のものを使用するほうがよいでしょう。
パウダーにスキーブーツ、ビンディング
スキーブーツについては普段使用しているもので問題ありません。ただし、リフトを使わずに自分の足で上り下りを繰り返すような条件のパウダー滑走では、前傾角度を緩めて歩きやすくする「ウォークモード」(*1)付きのブーツが適しています。またこのようなブーツを使用する場合は、歩行時にカカトが上がるようになっている専用ビンディング(*2)を組み合わせることで、より快適に歩行できます。
*1通常ウォークモード付きブーツとカカトが上がる専用ビンディングを使う場合は、スキーのソール面に「シール」という滑り止めを装着します。
*2ジルブレッタと呼ばれる山岳スキー用のビンディングがよく知られています。
スキーウェアとアクセサリー
スキーウェアは、腰回りに「パウダーガード」という雪の侵入を防ぐ機能がついているものがベストです。最近ではオーバーオールタイプやワンピースタイプも出ていますが、これもウェアの内部に雪が侵入してこないようにするためのものです。
アイウェアはサングラスよりもゴーグル、万一のためにヘルメットも着用しましょう。また、あってはならないことですが、雪崩や事故になどに巻き込まれた場合を想定し、いつでもスキー場のパトロールと連絡が取れるようにスマホも忘れないようにしましょう(もちろん充電量は十分に)。
以下は一般的なパウダー滑走の領域ではありませんが、参考までに記述しておきます。
ゲレンデ内パウダーでなく、スキー場管理区域外に出る場合は、スコップ、プローブ(雪に埋もれた人を発見するための棒)、ロープなどを専用のバックパックに入れて携行します。そのほかに、行動食や遭難信号を受発信する「ビーコン(アバランチトランシーバー)」も必須となってきます。
まとめ
いかがでしたか? いますぐパウダーを滑りたくてウズウズしてきませんか? 本格的なパウダースキーイングやパウダースノーボーディングは別として、ゲレンデ内パウダーであれば正しい知識とマナー、装備さえあれば誰もが楽しめるものです。近年では、ファットスキーの貸し出し、パウダー入門レッスンを開いているスクールなども増えていますから、興味がある人はそれらを利用してみるのもよいでしょう。