一枚の板で、雪山を楽しむことができるスノボは、ウィンタースポーツの中でも、トップクラスの人気を誇ります。リフトに乗って山を登り、ゲレンデを滑走すれば、非現実的なスピードが爽快感をもたらしてくれます。
スノボで体感できる速度は、時速およそ100キロメートル以上ともいわれます。スピード感も楽しめるスポーツですが、怪我や事故がつきものです。心おきなく楽しむためには、事前の準備と注意が必要です。
スノボで多い怪我って?
スノボの怪我や事故のデータは、関係機関から毎年報告されています。「全国スキー安全対策協議会」が発表する「スキー場傷害報告書」によると、2018年から19年におけるスノーボーダーの受傷者は、2,032人となっています。これは、スキーヤーの受傷者1,599人を大幅に超える、たいへん深刻な結果です。スノボで多い怪我には、どのようなものがあるのでしょうか。
頭の強打
スピードにまかせて転倒すれば、真っ先に頭を強打します。ところが、ファッション性を重視する愛好者の中には、ヘルメットはダサいというイメージが蔓延しています。ウィンタースポーツの盛んな欧米において、ヘルメットの着用は常識であり、国内でもスタイリッシュかつ安全なモデルの生産が進んでいます。脳しんとうなど、重篤な症状に至る可能性を回避するため、ヘルメットは必ずかぶりましょう。
骨折
転倒による骨折も多く見られます。特に手首や足を骨折する確率が高く、各種プロテクターは必須です。それぞれの部位に適したプロテクターが、現在安価に販売されています。滑る前に行うストレッチも、骨折対策には欠かせません。
肩の脱臼
スノボには上半身の怪我が多いとされています。足はボードに固定されていて、上半身は自由がきくぶん怪我をしやすくなっています。比較的肩の脱臼には注意が必要です。ショルダーサポーターを忘れずに装着しましょう。
誰が怪我しやすいの?
スノボが全国的に広まったのは、1990年代以降のことです。1989年にワールドカップが欧米で行われ、翌年には日本でも北海道で第1戦が開催されました。98年の長野冬季オリンピックでは正式種目として採用され、以降スノボ人口は増加の一途をたどっています。
若年層
2018年~2019年シーズンの「全国スキー安全対策協議会」「スキー場損害報告書」では、スノボの受傷者の90パーセント近くを30代以下が占めています。いっぽうスキーの受傷者は、18パーセントが10代、16パーセントが20代、40代50代がそれぞれ15パーセントずつ、11パーセントが60代と、偏りなく広範囲の年齢層にわたっています。スキーに比べるとスノボの受傷者は圧倒的に若年層の怪我が多く、90年代以降に普及した競技そのものの若さ、それを支える世代の若さを反映しています。
初心者
同報告書によると、スノボの受傷率は「初心者・初級者」の割合が50パーセントを超えています。「中級者・上級者」の受傷率が高いスキーに比べ、不慣れなプレーヤーに怪我の多い傾向が見てとれます。スノボでは、両足を固定しながら支える器具を手に持たないため、ゲレンデの斜面に立って止まっていることが難しく、経験が少ない人ほど転倒しがちです。転倒の際に体をかばおうとして、手首を骨折したりするケースもあります。初心者における受傷率の高さは、普段の練習がいかに大事か、安易な取り組みがどれだけ怖いかが分かります。
男性
受傷者の性別に見る割合は、全体の65パーセントが男性、35パーセントが女性です。スノボ愛好者における男性人口の多さが反映されています。
なぜ怪我をするのか、原因について理解しよう
楽しいはずのスノボ。どうして怪我をしてしまうのでしょうか。一人ひとりのスノーボーダーが、トラブルの起きやすい原因をしっかり理解しておけば、深刻な事態に至ることは少なくなるでしょう。
転ぶ
転倒は、もっとも大きな怪我の原因です。これを防ぐためには、「上手な転び方の練習をする」のが一番です。初級者も中上級者も、プレイ中には必ず転ぶものです。怪我をしないよう、上手に転ぶコツを会得しましょう。
・前方転倒
つま先のエッジが雪に引っかかると、前に転んでしまいます。止まるときはかかとに重心を置き、つま先を意識して持ち上げながら、ボードの前方を浮かせるようにします。いざ転倒してしまった場合は、手ではなく膝から倒れます。まず膝を付いたあと、胸・腹を地面に付け、そのまま失速するまで自然に滑ります。ボードは極力背面に持ち上げ、雪に引っかからないよう注意してください。
・後方転倒
後ろに転ぶのも、かかと側のエッジが雪に引っかかってしまうのが原因です。いわゆる「逆エッジ」と呼ばれる怖い現象です。山側を向いて滑る「ヒールエッジ」が反転して、「トゥエッジ」を雪に引っかけ谷側へ転倒すること、あるいはその逆パターンによって起きる転倒のことを、「逆エッジ」といいます。後方に転んでしまった場合は、体全体を丸めるよう意識し、できるだけ衝撃を緩和してください。
周囲に注意していない
転倒したあと、その場に止まったままでいると、後方から来た人に衝突されてしまう危険があります。周りの状況を迅速に把握することが大切です。ゲレンデの真ん中に滞留するのも危険です。プレイ中は、なるべくすぐに動くよう心がけましょう。また、谷側では前方が見えにくいため、特に周囲への注意が必要です。
無理なジャンプ
スノーボーダーにとって、華麗なジャンプは憧れのひとつです。しかし、初心者が無理なジャンプをすれば、骨折や脱臼などの怪我はもちろん、他者を巻き込む事故につながります。練習による基本の動きをしっかり身に付けて基礎をしっかり習得しましょう。
怪我の予防方法にはどのようなものがある?
スノボにおける怪我や事故は、事前の備えで万が一の被害を最小限に抑えることができます。具体的な怪我の予防方法や保険について知っておきましょう。
ストレッチ
ウィンタースポーツは体が冷えます。プレイ前には、体を暖めるストレッチをじっくり行ってください。滑走する30分ほど前を目安に、スノーボードブーツを履かない私服の状態で行います。腕や首を回す、手首をほぐす、足首からアキレス腱をしっかり伸ばす。屋内で行うのが理想的です。
リーシュコード
リーシュコードは、ボードと体をつなぐ道具です。ボードが流れてしまうのを防ぐ役割を果たします。他者や物を傷つける可能性を回避します。
プロテクター
プロテクターは何より大事です。シートベルトをせず車に乗るのと同じくらい、プロテクターなしのスノボはあり得ません。頭、胴、肘、手首、膝、足首、臀部とさまざまな部位のプロテクターがあります。現行プロテクターは、全身の部位をきめ細かくフォローしています。
リフト
ボードを付けたままリフトに乗るのは危険です。リフトの乗り降りにはコツがあります。不慣れな人は、ボードが引っかかったり、足がねじれてしまったりしてしまうこともあります。手間はかかりますが、リフトに乗るときはなるべくボードを外すようにしましょう。
新雪
新雪はパウダースノーと呼ばれ、そのふわふわなテクスチャーによる浮遊感が魅力です。とはいえ、粉のようなパウダースノーの上で転ぶと、もがけばもがくほど全身が埋まってしまいます。練習不足の初心者には、圧雪されているところがおすすめです。絶対にコース外へは行かないこと。
保険
現在、各保険会社から、スキーやスノボのトラブルに対応した様々な障害保険が販売されています。加入条件や契約単位は会社によって異なりますが、いざというときの莫大な捜索費用、他者への賠償金などを補償してくれます。自分にふさわしい保険にあらかじめ加入しておけば、安心してプレイすることができます。
まとめ
一面真っ白な雪に覆われたランドスケープ、スノボの舞台となるゲレンデは、スノーボーダーの心をファンタジックに高揚させます。
しかし、非現実的な高揚感と裏腹に、怖い危険が潜んでいることを忘れてはいけません。スノボにつきものの怪我や事故には、自分が被害者にも加害者にもなり得る可能性があります。万が一の事態に備え、まずは道具の完備や練習の反復が大切です。加えて保険への加入も検討しておきましょう。