スキー&スノボ大好き人間にとっての元気の素は、なんといっても山からの雪の便り。各地からゲレンデオープンの知らせが届けば、もうワクワクが止まりません。お出かけ前の用具やウエアのチェックは万全ですか?
毎年この時期になると、やっぱり気になるのが新製品の動向。そこで業界のプロを訪ね、ウエアのトレンドや最新用具の性能、持っていると便利な周辺アクセサリーの話、そしてチューンナップの仕方などをいろいろと伺ってきました。スキーやスノボ用品の購入を計画している方は本記事の情報をぜひご参考に!
2021~2022シーズンのスノーウエア最新ニュース
ウエアのデザイン、カラーリングの傾向は?
まずはウエアについて。話をうかがったのは「スポーツカムイ フレスポ若葉台店」の石村久恵さん。日本プロスキー教師協会(SIA)ステージ4(上級教師)の有資格者であり、現場で滑る、つまり使用者としての立場から用具やウエアを評価し、来店したお客さんに有益なアドバイスを行っています。
メーカーは毎年カラーリングやデザイン形状など、新シーズンのウリを押し出してきますが、21~22シーズンの傾向はどんな具合でしょうか?
「実は、昨シーズンモデルとあまり大きな変化はありません。新型コロナの影響もあって、昨年は例年に比べてあまり商品が動きませんでした。ですから、各メーカーともそれが影響しているのかもしれません。ただ、その中でも21~22シーズンの傾向として見られるのは、全般的にちょっとシブ目のアースカラーのウエアが増えているかなという感じです」(石村)
もちろん大胆なカッティングで鮮やかなカラーを用いた、いわゆるデモっぽいデザインのウエアも健在とのこと。トレンドがひとつの方向に収斂(しゅうれん)しているのではなく、いろんなジャンルが混在して多様性に富んでいるのがここ数年の傾向ではないかといいます。
「これが今年のトレンド!これでキメよう!と流されるのではなく、直感を信じて好きなパターンをチョイスし、着こなせばよいのでは? そのほうがゲレンデで自分の個性を発揮できるし楽しいと思いますよ」(石村)
また、個人的にはオフホワイト系の色合いを使ったウエアが増えているような印象もあるとのこと。
「えっ、白って雪の上では溶け込んでしまう色なのでは?」
そう思いきや、実は雪の上でホワイトはとてもよく映え、むしろ目立つのだそうです。
ウエアに用いる生地素材の進化
ウエアの機能性にも注目してみましょう。
「現在、スノーウエアを展開している日本の代表的なメーカーはミズノ、デサント、ゴールドウイン、オンヨネ、フェニックス(※)などです。ミズノは以前から発汗を利用して発熱するブレスサーモという素材を使用しているのがよく知られていましたが、一方デサントは光を熱に変えるヒートナビという機能が今のウリです。このように、メーカーそれぞれに透湿性や保温性など機能的な素材を用い、またベンチレーション機能なども充実しています。昔と違い、激しい運動をして汗をかいても快適なのが今のスノーウエアです」(石村)
さらに、最近のスノーウエアは保温性が高いことから中綿自体が薄くなり、結果的に軽くて着心地もよくなっているとのことでした。
(※)フェニックスは中国のアパレルグループ「志風音」に買収されたが、ブランドは継続中
インナーウエアも大事なアイテム
続いてインナーウエアの機能についても尋ねてみました。
「オンヨネはハイグレーターというシステムを使ったアンダーシャツの製品を展開しています。これは発汗量に応じてウエア自体が発熱や冷却をしてくれる機能で、着ているときの内側の温度をコントロールします。今やインナーはただの下着ではありません。素材の進化が高機能化をうながし、スポーツシーンでなくてはならないアイテムのひとつになっています」(石村)
ハイグレーターのアンダーシャツは、スノースポーツに限らず、オリックスバッファローズの鈴木伸之投手やメジャーリーガーの筒香嘉智選手など、多くの有名なプロ野球選手も使用しているそう。ウエアは見た目ばかりでなく、こうした機能性にも注目して自分に合ったものを選びたいものです。
スキー&スノボ用具の最新ニュース
振動吸収の進化に注目!
近年のスキーの板は、カービングモデルとしてほぼ完成形といっていいほど性能が安定しています。購入の際に、技術レベルに応じたチョイスさえ間違わなければ、どのメーカーの製品を選んでも滑りやすく、まず問題なしといえるでしょう。それはスノーボードの板についても同様です。
とはいえ、そんな中でもスキーやスノボの板に関する最新ニュースはぜひとも知りたいところ。そこで今シーズンならではの特徴、新機軸といったことについて、同じくスポーツカムイの山下敦さんに話をうかがいました。山下さんもSIAステージ4の資格を持ち、この道40年以上というスノースポーツ業界の知識豊富なベテランです。
「強いていうならば、私自身はスキー板の振動吸収の手法に着目しています。滑走中のスキーの振動吸収システムは昔からありましたが、単にブレを抑えるのではなく、現在は振動をエッジプレッシャーや滑走性に変換する技術が進んでいます。ヘッドやアトミック、ロシニョールの上級モデルやレーシングモデルではそうしたシステムが取り入れられ、アルペンワールドカップのシーンでもこれらのメーカーのスキーが上位を独占するなど、効果を発揮しています」(山下)
ただし、全般的に見ればニューモデルとはいえ、ウエア同様にどのメーカーも昨年モデルから大きな変化はないとのこと。やはりコロナの影響で開発に遅れが出ているのではないかとのことでした。
スノーボードの板は用途ごとに性能特化の傾向
スノーボードの板には、用途に応じて大きく「スリースタイル」「ジブ・グラトリ」「フリーライド」の3種類があります。
フリースタイルは一般的なタイプで、癖がなくオールラウンドに使用することが可能。ジブ・グラトリは、ゲレンデのパークエリアなどにしつらえてあるレールやボックスでテクニカルな滑りを楽しんだり(ジビング)、平らな場所でいろいろな技を繰り出したり(グラウンド・トリック)するのに適した板。フリーライドは、ゲレンデをスピーディに滑るのに適しているタイプです。
近年のスノーボード板の傾向は、こうしたそれぞれの用途に対する性能がより明確になってきているということ。たとえば、フリーライドのモデルはカービングでシャープにターンするのには適しているものの、エッジが引っ掛かりやすく、ジャンプやトリックがしやすいとはいえません。
また、ジブ・グラリトリは比較的幅広くソフトな乗り味なため、カービングターンでビュンビュン滑りたい人には不向きです。フリースタイルは万能モデルということから、初心者や自分のやりたいスタイルが決まっていない人にはオススメですが、逆にそれぞれの用途に対してはちょっと中途半端といえるかもしれません。
板を選ぶ際には、お店の人に自分のやりたいスタイル、経験などを告げてアドバイスしてもらうようにしましょう。
折りたたみ式のスキーが登場
ところで、話をうかがっているうちに「オッ!」と目を引いたのが折りたたみ(フォールディング)スキー。これはエランのVOYAGER(ボイジャー)というモデルで、販売に供せられるのは日本にわずか38台しか輸入されていないといいます。そのうちの1台がここスポーツカムイに置いてありました。
VOYAGERは折りたたみ式だから持ち運びしやすく、しかも強度的な問題もクリア。中~上級モデルとして、滑走性能も折り紙付きなのだそうです。今はエランのこの1機種だけですが、将来的にスキーはこんな方向に進化していくのかもしれませんね。
ただし、値段は今のところ27万2,800円!と超高価。それでも12月初旬の段階で、日本全国ですでに10台くらいは売れているとのことでした。
スキーブーツは新素材によってより軽量化の方向に
次は、スキーブーツに関する話。
「今シーズンからということではなく、ここ2~3年のトレンドは軽量化です。代表的なところでいえば、ヘッドではグラフェンという新しい炭素系の素材を用い、これは鉄の200倍くらい強度があるのに軽い。どのメーカーもこうした新素材の特性を生かして軽量化の方向に進もうとしています」(山下)
リアエントリーモデルが復活!
また、スキーブーツコーナーで並んでいる商品の中に、リアエントリーモデル(ブーツ後方が開いて履くタイプ)を発見。リアエントリーはかつて80年代に普及していたスキーブーツのスタイルで、普通のバックルタイプに比べて脱ぎ履きがイージーというのが利点でした。
ただ、足の甲部分のフィット感や締まり具合はどうしてもバックルタイプに及ばず、いつの間にか姿を消していたシステムです。それが復活したということは、当然フィットなどの面も改善されていることを意味しているのでしょう。今のところ、リアエントリーモデルをラインナップしているのはノルディカとアトミックの2社だけのようですが、来シーズンあたり、ほかのメーカーも追従してくるかもしれません。
小物・グッズ類の最新情報
グローブはハーフミトンタイプが増加中
ハーフミトンとは、親指と人差し指が独立していて、残り3本の指はまとめてひとつの袋に入れるというスタイル。5本指のグローブだと寒いし、といってスキーの場合、通常のミトンではポールを握るときにちょっと使いにくい。そこで登場したのがハーフミトンスタイルということでした。
今やアルペンワールドカップの世界でも、レース中にハーフミトンを使っている選手が結構いるのだそう。暖かくて使い勝手がいいハーフミトンは、今後ちょっと狙い目のアイテムかもしれません。
また、グローブに素手を直接入れるのではなく、祭礼などに用いられるナイロン製の薄い手袋をつけてからグローブをはめると、より暖かくていいのだとか。現在は専用のインナーグローブとして、そのための製品も出回るようになりました。しかも、スマホの画面タッチに対応している製品もあるので、ぜひチェックしてみてください。
光の強さに応じてレンズの色の濃さが変化
ゴーグルについては、今シーズン注目すべきポイントは光の強さで色が変化する調光レンズ。近年ヘルメットが普及してきているので、それだけゴーグルの着用率が高くなっています。朝から夕方まで着用し続けていると、周囲の光の強さが時間帯によって変化するので、やはり自動的にレンズの色の濃さが変わってくれるのはありがたいこと。
ただ調光レンズそのものは特に新しいわけではありません。昔からあるものですが、そのメリットが改めて見直され、それを採用している製品が今シーズン脚光を浴びています。
シーズンインにあたって事前にやっておきたいこと
スノーウエアには事前に撥水処理を
それでは、初滑りの前にやっておきたいことを簡単にまとめておきましょう。
まず、ウエアの撥水処理について。シーズン終わりにクリーニングに出し、その際に撥水加工をしているのであれば問題ありません。そうでない場合は、自分でしっかり撥水コーティングをしておきましょう。
やり方は簡単。ウエアに撥水スプレーをシュッと吹きかけるだけ。ポイントはスプレー液をケチらずに、ウエアの生地がビショビショになるくらいしっかり吹きかけ、そして乾燥させるということ。
ただし、密閉した室内でそれをやるのは危険です。窓を開けて換気をするとか、できればベランダなど屋外で作業することをおすすめします。火気にも十分注意してください。
滑走面の状態は大丈夫?
用具に関しては、スキーやスノボの滑走面をチェックしておきましょう。オフシーズン中にベースワックスを用い、しっかりホットワクシング(アイロンなどでワックスを溶かして滑走面に染み込ませる)して保管しているという意識の高い人は、残念ながらあまり多くないようです。昨シーズンから使いっぱなしのままシーズンイン、というケースが大多数なのではないでしょうか。
そこで、自分の板の滑走面をよく見てみましょう。テカリがなく、ちょっと白くなってガサガサした状態になっているとしたら、それは滑走面が酸化している証拠。このままでは滑走性が悪く、したがってターンなどの操作もしにくい状況です。
スキーやスノーボードの滑走面の手入れは本格的に行うのはなかなか難しいもの。特にエッジ研磨ともなると、シロートがヘタに手を出すとチューンダウンにもなりかねません。そこで、チューンナップ専門店「カムピリオ大阪」代表の清水英安さんに、滑走面の手入れのポイントをアドバイスしてもらいました。
清水さんはかつて全日本ナショナルチームのサービスマンとして、アルペンスキーワールドカップをはじめ、オリンピックや世界選手権などの開催各地を転戦。スキーチューンナップの極みを知り尽くしています。
「ご自分で処理しようという場合、最低限やるべきことは、まずリムーバーで滑走面をしっかり清掃して汚れを取り除くこと。その後、液体のスプレーワックスなどを吹きかけ、ナイロンブラシや布で磨き上げます。固形のワックスを使用する場合は、滑走面に塗った後、コルクなどでよく延ばしてあげましょう」(清水)
これだけでもずいぶん滑り心地は変わるのだそうですが、できればホットワクシングをするのが理想。そのためのツールも市販されているので、やる気のある人はトライしてみてはいかが?
ただし、その手間ひまやツール購入の費用を考えると、やはりプロにチューンを依頼するほうが手っ取り早いし、オトクかもしれません。
ホットワクシング後はワックスをしっかりそぎ落とす
チューニングのプロショップでは、専用のサンディングマシンを用いて滑走面の表面をごく薄く削り取り、ワックスアップしやすい状況をつくり出します。
このとき、滑走面側のエッジの表面もきれいに磨かれます(ただしエッジの最終処理は通常手作業)。その後ホットワクシングが行われてチューンナップ完了。
仕上げられたスキーやスノーボードは依頼者の元に引き渡されますが、実はこの状態が即滑走可能というわけではありません。自分でやるべき処理がまだ残っているのです。
「ホットワクシング後は滑走面の酸化防止の意味もあり、通常はワックスをはがさずにお客様に戻します。ですから滑る前にはご自分でワックスをはがす必要があります」(清水)
ワックスは、実は塗りっぱなしでは滑ってくれないのです。
「滑りに出かける前、あるいはゲレンデで滑る直前でもいいので、プラスチックのスクレーパーなどでワックスを滑走面から削り取ってください。その後ブラッシングして、残っているワックスをさらにはぎ取ります。これで下処理が完成です。それから改めて液体スプレーワックスなどを吹きかけ、ブラシや布でよく磨いてあげればもうバッチリです」(清水)
清水さんによれば、ホットワクシングしたままワックスを削り取らずに滑ってしまう人が結構多いので、ご注意くださいとのことでした。
スキーの場合、両手にポール(ストック)があるので多少滑りが悪くても押して滑ることができますが、両手がフリーのスノーボードで滑りが悪いとなると、もう最悪です。シーズンインにあたり、滑走面の状態はしっかりチェックしておきたいものです。
ちなみにチューンナップの依頼に関しては、プロショップであれば通常どのお店でも対応してくれるはず。チューンナップ専門店のカムピリオ大阪はもちろん。先のスポーツカムイ フレスポ若葉台店でも対応しています。興味のある人はぜひ問い合わせてみてください。
★アドバイスをいただいたみなさん
★取材協力=スポーツカムイ フレスポ若葉台店/カムピリオ大阪