ワックスアップで操作性向上! 自分でできる用具のメンテナンス

スキー・スノボ豆知識

新品の用具でもメンテナンスは必要

滑走性(滑りのよさ)は、スキーやスノーボードの板に盛り込まれている性能要素のひとつ。各メーカーは滑走面の材質や加工、仕上げの状態にさまざまな工夫を凝らして出荷しています。しかし、そんな新品の用具であっても、さらに滑りをよくするために、自分でもうひと手間かけたいものですね。それが「ワックスアップ」という作業です。

滑りのよさは操作のしやすさにつながる

ところが、なかにはこんなことを言う人もいます。
「よく滑るとスピードが出るから怖い」
「スピードは出さないからあまり滑りすぎなくてもいい」

でも、これは大きな勘違い。たとえば、ハンドルの付いていないスキーやスノーボードでターンするためには、まず横滑りをコントロールすることが求められます。そして、横滑りのしやすさは、板自体の滑走性に左右されるのです。滑りがよくなれば横滑りもスムーズに行えるようになり、ターンしやすくなるというわけですね。
また、ターンしやすければスピードコントロールも容易。つまり、滑りの良し悪しはスキーやスノーボードの板全体のコントロールしやすさに直結しているということを理解しておきましょう。

スキーやスノーボードの滑走面とは

現在のスキーやスノーボードの滑走面には、ポリエチレン系の素材が用いられています。ポリエチレンはほかのプラスチック素材より低温下で安定し(脆くならない)、雪の上で高い滑走性を示すからです。滑走面といえば、昔からP-TEX(ピーテックス)と呼ばれる素材(商品名)が有名ですが、これもやはりポリエチレンベースです。
ただし、ポリエチレン系の滑走面素材がよく滑るといっても、そのまま何もしなくていいわけではありません。もちろんある程度は滑ってくれますが、雪の上を滑れば滑走面と雪面との間に摩擦が生じ、雪の温度や水分量、また静電気摩擦などによって滑りが悪くなってきます。
滑りが悪くなるということは、先述のようにスキーやスノボの操作もしにくくなるということ。ですから、その摩擦をなるべく少なくしてあげなくてはなりません。そこで、潤滑剤として必要になってくるのがワックスです。

なぜWAXが必要? その3つのメリット

ワックスを塗ってあげることのメリットについて、改めて整理してみましょう。
①よく滑るようになる
滑りがよくなれば、スキーやスノーボードの板の操作もしやすくなります。これはすでに述べました。
②上達の補助になる
板の操作がしやすくなれば、技術的にもいろいろな感覚がつかみやすくなります。滑りの悪い板よりは、上手くなれるきっかけも得やすいのではないでしょうか。
③滑走面の保護になる
実は、これもワックスアップにおける大切な要素。滑っていると滑走面は摩擦や水分による加水分解などでダメージを受けていきます。また、紫外線や空気にじかに触れることによる酸化も問題です。ワックスはそんなダメージ要素から滑走面を守る役割を担っています。用具を長持ちさせるためにも、ワックスによる日頃の手入れは大切です。

滑る前にやっておきたいこと

現在滑走面用のワックスとして市販されているのは、タイプ別に①固形ワックス、②液体ワックス、③ペーストワックスなどです。
固形ワックスは、本来はアイロンなどで溶かして滑走面に浸透させるホットワクシングのためのものです。


液体ワックスは、通常スポンジの付いたスプレー缶などに入っています。


ペーストワックスは、ワックスが柔らかい半練りの状態なっているので、これをスポンジなどに付けて滑走面に塗り広げていきます。


作業の手間ひまや、どれだけ効果が持続するかといった点で一長一短ありますが、これらのワックスアップのポイントについて、スキーやスノーボードのチューンナップを行っているスポーツショップZERO代表の原島雅義さんに話をうかがいました。

理想はホットワクシングだけれど…

ワックスを塗るのなら、理想をいえば固形ワックスによるホットワクシングです。滑走面には毛細孔といって、目に見えない小さな穴が無数に開いています。そこに溶かしたワックスを流し込み、冷えて固まった後にしっかり剥がすのがホックワクシングの手順です。ただし、ワックスアイロンなどのツールや作業スペースが必要になることから、ホットワクシングはちょっとハードルが高い作業です。
固形ワックスは基本的に溶かして使うためのものですが、それ自体をゴシゴシと滑走面に生塗りしてもかまいません。この場合は、塗った後に硬めのコルクやポリッシュ系のスポンジなどでよく延ばしてあげるといいでしょう(原島)。

簡単で効果的なWAXアップの方法

ワックスを塗る作業で一番簡単なのは、スプレー式の液体ワックスです。缶に付いているスポンジの部分を滑走面に押し付けるとジュワッと液体ワックスがにじみ出てくるので、そのまま出てくる量を調節しながら塗ることができます。ただし、あまりワックス効果が長持ちしないというデメリットがあります。
そこでオススメしたいのが、ペーストワックスです。
セットを購入するとベースケア(クリーニング)用と滑走用の2種類が入っていて、ワックスを塗る手順としては次のようになります。

①ベースケア用のペーストをセットに付属しているスポンジに付け、滑走面にまんべんなく塗り広げる。
②2~3分で乾くので、その後スポンジでさらに磨いて下地をつくる。
③出来上がった下地の上に滑走用のペーストワックスを同様に塗り広げ、乾いた後にやはりスポンジでよく磨き上げて完了。

ペーストタイプはスプレー式の液体ワックスを塗るよりは手間がかかりますが、ホットワクシングをするほど面倒な作業ではなく、場所も取りません。また、1~2日くらいはワックス効果が持続するのもペーストタイプのメリットです。
シーズンに滑る日数にもよりますが、ペーストワックスのセットをひとつ購入しておけば、普通はそれで十分ひとシーズン持つのではないでしょうか(原島)。


ペーストワックスのセット

エッジの手入れはどうすれば…?

新品のスキーやスノーボード板であれば、エッジはそれなりにシャープな状態です。通常は、特に手を入れる必要はありません。

しかし、アイスバーンなどを長く滑っていると徐々に角が丸くなってきて、シーズンの終わり頃には切れ味が悪くなってきます。特に技術レベルが高くなるほど、硬い雪質でターンしているときのエッジの切れ味は感覚的に気になってくるもので、そうなるとエッジを研磨する(研ぐ)作業が必要になってきます。
エッジを研磨するためには、専用のファイル(ヤスリ)やガイドを用います。これらのツールは市販されていますが、スキーやスノーボードをしっかり固定できるチューンナップ台やバイスも必要になります。
さらに、作業にはある程度熟練が求められるので、初・中級者の方は、エッジはあまり自分で触らないほうがいいかもしれません。エッジの切れ足が気になるようなレベルまで上達したら、まずはプロにチューンナップを依頼することをオススメします(原島)。


エッジの研磨には多少なりとも技術が必要

滑った後はどうしよう? 次に出かけるまでにやっておきたいこと

滑った後は、まず水分をよく拭き取って乾かします。そして、先に説明した手順でワックスを塗っておきましょう。
ワックスアップは滑走面のダメージ回復に加え、酸化に対する保護といった意味合いもあるので、滑った後はなるべく早めに処理してあげたいものです(原島)。

シーズンオフの用具の管理

シーズンが終われば、次のシーズンまで用具は不要。どこかにしまっておくことになりますが、自分の用具を長持ちさせるためにも保管の仕方は大切です。

まずは水洗いとその後の乾燥

スキー場は春休み頃になると、リフト乗り場や降り場などでは雪が溶けないようにスノーセメント(雪面硬化剤)を撒いているケースが多くあります。ところが、このスノーセメントの成分はかなり錆をもたらします。
ですから、滑り終わった直後に水洗いできれば理想ですが、なかなかスキー場にそんな設備は見当たりませんね。そこで、少なくとも家に帰ったらしっかり水洗いし、よく拭いて乾燥させましょう(原島)。

酸化させない、錆びさせない

水分が乾いたらリムーバーなどで滑走面の汚れを落とし、その後は滑走面が酸化しないようワックスで保護してあげます。ペーストワックスであれば、滑る前と同様にベースケア用を滑走面全体に塗り広げておくといいでしょう。
エッジについてもワックスを塗っておけば錆に対する保護になりますが、もうひとつの錆止め手段として、エッジに油性マジックを塗るという方法もあります。油性マジックはリムーバーや汚れ落としで拭けばすぐ落ちるので、黒くなっても大丈夫です(原島)。

保管場所は湿気のないところに

スキーやスノーボードの保管場所も問題です。ケースに入れて保管するのであれば、ケースの中はしっかり乾燥させてからしまっておきましょう。
簡易物置などにしまう場合も同様で、湿気が溜まらないよう、風通しがどうなのかをチェックしておく必要があるでしょう。また、室内にそのまま保管するような場合、日光の紫外線に晒されないよう置き場所にも注意しましょう(原島)。

最後に、シーズンオフの保管のポイントを下記に整理します。
①塩分や汚れを取ってよく乾燥させる
②滑走面やエッジを酸化させないためにワックスで保護する
③保管場所の湿気と紫外線に注意

間違いのないプロのチューンナップ

スキーやスノーボードの手入れの仕方として、初・中級者が普通にゲレンデで楽しむくらいならば、これまで解説してきたようなワックス処理でまずは十分といえます。何もしないよりはずっとよく滑り、同時に用具の保護にもなって長持ちさせることができるでしょう。
ただし、技術レベルが上がってきて、それぞれの用具の性能をもっと発揮させたいということになれば、より高度なチューンナップが必要になってきます。参考までに、そんなチューンナップの世界をちょっとご紹介します。

滑走面をフラットにする

実は、スキーやスノーボードの滑走面は完全に平ら(フラット)になっているわけではありません。パッと見ても気づかないほどですが、製造の過程で進行方向に対して微妙にコンケーブ(凹面)に仕上がっていたり、コンベックス(凸面)になっていたりすることがあります。
この場合、特にコンケーブが問題で、滑走面の中央がへこんでいることからエッジが引っ掛かりやすく、スムーズなターンがしにくくなってしまいます。そこで滑走面を削り、「フラット出し」という作業を行います。
ところが滑走面は人の手で削れるほど柔らかくありません。どうしてもマシンによる処理が必要であり、この場合はチューンナップショップのプロの手に委ねる必要があります。


滑走面処理を行うための専用マシン

滑走性を高めるベースマーク

また、滑走面をよく見ると、それほどツルツルではないことに気づくでしょう。ツルツルだと雪面との間できた水の膜が滑走面に密着し、滑りが悪くなってしまいます。そこで、適度にその水の膜を逃がすために、滑走面には非常に細かな溝が入っています。これをストラクチャー(またはベースマーク)と呼び、特にレースなどでより高い滑走性が求められるような場合、雪温や雪の水分量などに応じてさまざまなベースマークのパターンが工夫されています。
もちろん、ストラクチャー加工するのは特殊なマシンでなければできません。フラット出しも含め、こうした滑走面加工やエッジの研磨、そしてベースワックス処理などを行ってくれるのがプロのチューンナップショップです。
スキーやスノーボードの手入れも突き詰めていけばとても奥が深く、語り出せばきりがありません。技術レベルが上がるほど、そんな知識も必要になってくるというわけですね。


滑走面に斜めの模様が見える。これがベースマーク

まとめ

今回は簡単にできるワックス処理の方法と、オフシーズンの保管の仕方、またより高度なチューンナップの世界の一端をご紹介しました。
用具は手入れ次第で使い勝手はずいぶん変わります。せっかく手に入れたマイスキー&マイスノーボード。いつでも気持ちよく滑れるように手入れし、大事に長持ちさせてあげてくださいね。

アドバイスをいただいた原島さん


原島雅義さん(スポーツショップZERO代表)

今回ワクシングのアドバイスをいただいた原島さんは、スキーやスノーボードのチューンナップを中心に、スキー用品の販売、ヤフーショップなどのネットショップを運営。
また、PISLABなどの人工芝スキー場(サマーゲレンデ)用に、スキーのソールをステンレスに張替える『MGC』の製作も行っています。チューンナップのご要望のある方は、問い合わせてみてはいかがでしょうか。

TEL. 042-814-2284
〒252-0153 神奈川県相模原市緑区根小屋2915-74
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